AI動画副業の業務委託契約|基本契約書・個別契約書・フリーランス法まで弁護士が徹底解説

約35分
生成AI記事コンテンツ
AI動画副業の業務委託契約|基本契約書・個別契約書・フリーランス法まで弁護士が徹底解説

概要

生成AI動画制作の副業では、AI特有の「出力の不確実性」や「細部の修正が困難」という性質により、従来の業務委託契約ではクリエイター側に過度なリスクや不満が集中しがちです。 トラブルを防ぐための肝は、契約を「基本契約」と「個別契約」の二層構造にし、工程ごとに合意を取りながら進める点にあります。無償の営業と有償業務の境界を明確にしつつ、知的財産権を譲渡ではなくライセンス形式にすること、また生成AIのプラン料金やクレジット代などの実費負担をあらかじめ定義することが重要です。 さらに、副業であっても個人で活動する限りはフリーランス法の適用対象となるため、法に基づいた適正な条件明示を行うことが、未払いや際限のない修正要求から身を守る鍵となります。

この記事でわかること

  • 商談段階で「営業」と「業務」の境界線をどう引くか
  • 一般的な業務委託契約がAI動画制作に合わない3つの理由と工程分割の考え方
  • 基本契約書に盛り込むべき13項目(生成AIサービス条項・知的財産権・秘密保持の設計)
  • 個別契約書とフリーランス法第3条の8項目、60日支払ルール
  • 実費(プラン料金・クレジット・サービス切替)のトラブル回避法

AI動画の副業、こんな不安を抱えていませんか

  • YouTubeで見た生成AI動画の副業を始めて、初めて企業から案件の打診が来た。うれしい反面、「何を確認すればいいんだろう」と不安になっている
  • 依頼はLINEとDMのやりとりだけ。契約書らしいものは何もない
  • 修正の依頼が続いていて、もう何回直したかわからない。「これ、いつ終わるんだろう」と思っている
  • 生成AIで作ったことをクライアントに言っていない。「言わなきゃいけないの?」とずっと気になっている
  • 使った素材の著作権、正直よく確認していなかった

生成AI動画を作れるほど、不安と不満が増える理由

生成AI動画の副業を続けていると、ある時期から2つの感覚が頭をよぎるようになります。

ひとつは、クライアントへの不安です。生成AIで作った素材をそのまま使ったこと、生成AIを使ったと明示していないこと、素材の権利を詳しく確認していないこと──依頼してくれた企業に、知らないうちに法的リスクを負わせていないだろうかという不安です。

もうひとつは、仕事そのものへの不満です。修正がどこまで続くのか、仕様がいつの間にか変わっていないか、追加作業の費用を請求していいのか──動画は作れているのに、仕事全体をコントロールできていない感覚です。

こうした悩みを抱えているのは、あなただけではありません。厚生労働省が委託するフリーランス向け相談窓口「フリーランス・トラブル110番」には、同じ悩みを抱えるクリエイターからの相談が数多く寄せられています。特に報酬の支払いに関するトラブル(未払い・遅延・減額・条件の食い違い)が目立ち、IT・クリエイター分野で特に多く見られると報告されています。あなたが感じている不安や不満は、業界全体に広がっている現象の現れでもあるのです。

これらの根本原因は、後ほど詳しく見るように、一般的な業務委託契約の型が生成AI動画制作の実態に合っていないことにあります。契約の型が合わないために、生成AI特有のリスクがすべてクリエイター側に集中してしまう──これが不安と不満の正体です。

生成AI動画制作の受注〜納品フロー:どの段階で何を確認する?

生成AI動画制作は、商談から納品までを通して考えると、おおむね 商談 → 受注 → 企画 → 静止画 → 動画化 → BGM・ナレーション → 動画編集 という流れで進みます。

本記事では、このうち商談から受注までの入口部分に焦点を絞ります。企業からの打診を受けてから基本契約書・個別契約書を締結して業務に入るまでに押さえるべきポイントを、契約実務の目線から順に解説していきます(受注後の企画・制作フェーズの留意点は、別記事に譲ります)。

まずは最初の関門、商談段階から見ていきましょう。

商談段階:「試しに1本作って」と言われた──それ、営業?それとも業務?

最優先で考えたいのは、「どこまでが無償の営業で、どこからが有償の業務か」という境界線を、自分の中であらかじめ決めておくことです。

たとえば「試しに1本作って」という打診が来たとき、そのサンプル制作が自分にとって業務の一部なのか、それとも営業活動の範囲内なのかを、あらかじめ決めておいた基準に従って判断する──そういう運用にしておきます。線引きそのものはクリエイターによって事情が異なりますが、実作業を伴うものは業務として整理するほうが、後々のトラブルを避けるうえで適切なケースが多くなります。

境界があいまいなまま進めると、案件を取りたいがゆえに契約もなくじわじわと無償でサービスを提供し続け、最終的に見送られてしまうというリスクがあります。たとえば、こういった場面が起きえます。

普段はRunway AIで動画を制作していたが、クライアントから「著作権やIP補償の面でFireflyを使ってほしい」と言われた。「Creative Cloud Pro」を契約してサンプル動画を作成・送付してみたが、「ちょっとイメージが違うので、この話は……」となった。

ツール費用を自己負担でかけ、制作時間もかけ、それでも報酬ゼロで終わる──こうした事態を避けるためにも、境界線は打診を受ける前の段階で引いておく必要があります。

「よい感触」があっても、契約はまだ成立していない

ここで参考になるのが、類似した場面についての裁判例です。

名古屋地裁(平成16年1月28日)の判決では、採用通知が出されたにもかかわらず、その後の交渉が予定されていたこと・採用通知の内容が具体的でなかったことなどから、**「交渉の相手を決定したにとどまり、契約が成立しているものとはいえない」**との判断がなされています。

さらに、東京地裁(平成20年9月30日)の判決は、システム制作の事案について、契約書の案文について文言等の修正作業が行われていたものの、最終的に契約書が作成されるに至らなかったことを理由に、請負契約の成立を否定しました。この事案では、発注側の窓口担当者が「最終的な決裁は承認待ち状態であり、決裁が下りるまで今週中はかかる」と述べていた場面すらありましたが、それでも契約は成立していないと判断されています。

動画制作の文脈に置き換えれば、「ぜひお願いしたいです」「一緒にやりましょう」という言葉があっても、さらには「社内の稟議が通るのを待っているところです」といった前向きな進捗報告を受けていたとしても、それだけでは契約として成立していない可能性があります。報酬・業務内容・納期といった具体的な条件が合意され、書面(または電磁的記録)で明示されて初めて、契約に基づく「業務」が始まる──この認識を持つことが、トラブル防止の出発点です。

📌 ひとこと: 過去の制作実績をポートフォリオとして次の営業に活用するには、もとの発注者からの許諾が必要です。今後締結する契約書に以下のような条項を入れておくと、次の営業活動で実績をスムーズに展開できるようになります。

第○条(ポートフォリオ等への使用) 受注者は、本契約に基づき制作した成果物の全部または一部を、受注者自身のポートフォリオ、ウェブサイト、SNS、営業資料、その他のプロモーションを目的とした媒体において、無償で公開、複製、展示および使用することができる。

なぜ一般的な業務委託契約は、生成AI動画制作に合わないのか──3つの理由

受注が現実的になったとき、まず頭をよぎるのは「どんな契約にすればいいのか」という問いです。この問いに対する最初の答えは、一般的な業務委託契約のひな形をそのまま使わないということです。生成AI動画制作には、従来型の契約では吸収できないリスクがあり、多くのトラブルは契約の型を間違えることから始まります。

一般的な業務委託契約は、クリエイターが最初から完成形を見据えて制作し、細部まで自分の手でコントロールできるという前提で設計されています。「こういう仕上がりにする」と最初に合意し、その通りに作り込んで納品する。修正が必要になっても、筆や編集ソフトで細部まで調整できるため、最終成果物に対する責任を負いやすい構造です。

ところが、生成AIを用いた動画制作では、この前提が成り立ちません。具体的には、次の3つの特性が壁となります。

① 生成AIの出力に、成果物が一定程度依存する

生成AIは、同じプロンプトを入れても毎回異なる結果を返します。いわゆる「出力ガチャ」の性質です。制作者は、複数回生成した中から相対的に良いものを選び取っていく進め方が中心になります。つまり、最終成果物は一定程度、生成AIが返してくる出力そのものに依存します。従来のように「頭の中にあるイメージを手で再現する」という制作ではありません。

② 背景やモーションの微調整は、生成AIに対して直接かけられない

従来の編集ソフトで可能だった細部のコントロール──特定のキャラクターの表情だけを変える、背景の一部だけを描き直す、動きのタイミングを数フレーム調整する──といった微調整を、完成した生成結果に対してピンポイントで効かせることは、現在の技術水準では極めて困難です。「ここだけ暗くしたい」「目線をこちらに向けたい」といった要望が出ても、根本的にはプロンプトや素材から作り直すことになります。

③ 後からの修正要求に応じきれず、債務不履行のトラブルに発展しかねない

完成した動画を見せたあとに、クライアントから「ここの背景だけ変えてほしい」「このシーンの動きを微妙に調整してほしい」と言われても、生成AIの特性上、思うように修正できない場面が出てきます。かといって「対応できません」と突っぱねれば、最終成果物が合意した内容に達していないとして、債務不履行を主張され、報酬減額や損害賠償のトラブルに発展するおそれがあります。

完成形を前提とした一般的な業務委託契約をそのまま使うと、これら3つの性質から生じるリスクが、すべてクリエイター側に集中してしまう構造になっているのです。

解決策:工程ごとに区切り、チェックポイントで合意を取りながら進める

このリスクを避けるために採るべきアプローチは、制作を一本の業務として最後にまとめて納品するのではなく、主要な工程ごとに区切って、その都度クライアントから合意を取りながら進めていくというものです。

具体的には、たとえば企画→主要シーンの静止画→動画化→ナレーション・BGM→編集・統合という工程を設定し、各工程の終わりを「チェックポイント」と位置づけます。チェックポイントでは、その時点の成果物(企画書、主要シーンの静止画、動画化された素材など)についてクライアントから合意を得てから次の工程へ進む。一度合意した工程は、後の工程でひっくり返さない。変更が必要になったら、新たな追加発注として扱う──この約束事を最初から組み込んでおくのです。

契約書は「基本契約書+個別契約書」の2層構造でつくる

チェックポイントごとに合意を形成していく進め方を、契約という形に落とし込む実務的な答えが、基本契約書と個別契約書を組み合わせた二層構造です。共通ルールを基本契約書に、案件ごとの条件を個別契約書に書き分けることで、工程をまたいだ一貫性と、案件ごとの柔軟性を両立できます。

基本契約書は、各工程に共通する取り決めをまとめた書面です。著作権の扱い・秘密保持・生成AIツールの使用・費用の発生ルールなどを一度定めておくことで、全体の進行を円滑にします。

個別契約書は、各工程ごとに「何を・いつまでに・いくらで」という具体的な合意内容を定める書面です。企画フェーズなら「企画書の作成:○円・○月○日まで」という形で発注し、その工程が完了した段階で次の個別契約書を発行します。この個別契約書が積み重なることで、工程ごとに合意を重ねながら業務が進み、全体として一つの動画制作業務が完成していきます。

この構造により、各工程が完了するたびに報酬が確定し、途中でプロジェクトが中断しても既着手分の報酬を請求できる状態になります。また、仕様が変わっても「その変更は次の個別契約書で対応する」という整理ができるため、際限のない修正要求を防ぐ効果もあります。

まずは企画フェーズだけを切り出す

特に新規クライアントで進展が不透明な場合は、最初から全工程の契約をまとめて結ぼうとせず、まず企画フェーズの個別契約書だけを締結するところから始めることが現実的です。

企画が完成した段階でクライアントとすり合わせ、続きを進めるかどうかを判断できる。クライアント側も「全部お願いするかどうかわからないけど、まず企画だけ」という形で発注しやすくなり、受注のハードルが下がります。

いきなり2種類の契約書を用意する負担が大きい場合、最初期の企画段階においては発注書のみで対応し、後続の業務が発生しそうなタイミングまでに用意することも許容されます。ただし、各工程の個別契約書にその都度共通ルールを書き込む手間が増え、工程間のルールが断絶するリスクがある点には注意が必要です。

生成AI動画制作の基本取引契約書──盛り込むべき13項目

基本取引契約書は、案件のたびに作り直す書面ではなく、一度整えておけば今後のどの工程・どの案件でも土台として使える書面です。おおむね次のような構成をとります。

  • 目的条項
  • 適用範囲
  • 個別契約の条件
  • 業務遂行上の義務
  • 各段階の成果物確認方法
  • 使用する生成AIサービス
  • 代金の支払方法
  • 素材の提供
  • 知的財産権の帰属
  • 第三者の権利侵害(非侵害保証 or 侵害非保証)
  • 個人情報の取扱い
  • 再委託
  • 一般条項(権利義務の譲渡禁止/不可抗力/守秘義務・秘密保持/有効期間/契約解除/期限の利益喪失/契約終了時の措置/損害賠償/反社会的勢力の排除/合意管轄)

なかでも生成AI特有の3項目──使用する生成AIサービス・知的財産権の扱い・秘密保持──は、従来型のひな形では抜け落ちがちなので、特に注意が必要です。以下、それぞれの条項について、「何を決めるもので、なぜ必要か」を順に見ていきます。

目的条項

契約書の冒頭に置かれ、「この契約が何のためのものか」を宣言する条項です。一見形式的に見えますが、当事者間でやり取りされる情報の使用目的の範囲を画定し、後続条項の解釈の基礎を作るという重要な役割を担います。

主要な記載事項としては、次のようなものが考えられます。

  • 各工程における共通の条件を定めたものであること
  • 契約の目的は「○○という生成AI動画制作物を作成すること」にあること

適用範囲

基本契約書が、どの範囲の取引に適用されるかを定める条項です。通常は、当事者間の個別契約に適用するという形で規定します。

あわせて、基本契約と個別契約の記載内容が矛盾した場合にどちらを優先するかも、この条項で整理します。実務慣行としては、基本契約と個別契約が矛盾した場合は個別契約を優先するという建付けが定型です。これにより、案件ごとの特殊な事情を個別契約で柔軟に反映できるようになります。

個別契約の条件

個別契約でどのような事項を定めるかを、基本契約書側で明示しておく条項です。ポイントは、業務内容・報酬額を筆頭に主要項目を個別契約で定めることを、基本契約書側で先に明示しておくことにあります。

具体的には、次のような項目を個別契約で定めることを基本契約書側で示しておくのが実務的です。

  • 業務の内容
  • 報酬の金額
  • 業務期間
  • 作業場所
  • 業務対応時間(作業時間)
  • 業務報告の形式
  • 素材画像等の授受
  • その他各段階の特記事項

これらは、後で述べる**フリーランス法の条件明示義務(第3条)**とも関わってくる部分です。基本契約書で項目を網羅的に列挙しておくことで、個別契約書を作るたびに漏れが生じることを防げます。

業務遂行上の義務

受注者がどのような姿勢で業務を進めるかを定める条項です。案件を問わず共通する基本的な義務を、基本契約書で一度だけ定めておく位置づけになります。

具体的には、「善良な管理者の注意をもって業務を遂行する」「進捗を適宜報告する」「合理的な範囲で発注者の指示に従う」といった内容を置きます。個別契約書ごとに繰り返すのではなく基本契約書に集約しておくことで、どの案件にも自動的に同じ義務が適用される形になります。

各段階の成果物確認方法──「後から『やっぱり違う』」を防ぐ条項

工程ごとに区切って進める生成AI動画制作では、各段階の成果物(企画書・主要シーンの静止画・動画化された素材など)を、発注者にどう確認してもらうかを決めておく必要があります。

確認方法・確認期間・期間内に異議がなかった場合の扱い──この3点をあらかじめ定めておくことが、際限のない修正要求や「後出しのやり直し」に対する最も有効な歯止めになります。具体的には、確認の方法(メール・専用ツール・対面打ち合わせ等)、確認にかけられる期間(例:提出から○営業日以内)、期間内に異議がなかった場合の扱い(合意したものとみなす/修正要求は追加発注として扱う)などを定めます。

この条項が、「後から『やっぱり違う』と言われる」リスクを防ぐ要になります。

使用する生成AIサービス──サービス名とプランまで発注者と合意する

生成AI動画制作に固有の条項です。個別契約または基本契約において、最低限、次の項目について発注者との同意を得ておくことが推奨されます。

  • 使用するサービス名称
  • 使用するサービスのプラン(利用規約の適用関係を把握するため)

法人案件では法人プランの使用がほぼマスト

発注者が法人となる場合、受注者側も法人用のプランを使用することがほぼマストになります。これは、法人プランと個人プランとの間で、次のような点に極めて大きな差があるためです。

  • 学習データへの提供
  • 送信情報(プロンプト情報)の機密性
  • 送信情報に含まれる個人情報のプライバシー保護
  • 動画生成AIにおけるIP(知的財産権)侵害補償

勝手に個人プランで発注者の製品情報や企業秘密情報を入力すると、それだけで受注者としての秘密保持義務違反を問われかねません

もっとも、ChatGPTやClaudeの法人プランは2〜5シート単位での契約が必要となるため、個人のクリエイターには対応が難しい場合があります。費用面を踏まえると、現状はGoogle WorkspaceによるGeminiが現実的な選択肢として挙がってきます。

利用規約の変更リスクに備える免責条項を置いておく

生成AIサービスの利用規約は、非常に高い頻度で改定されます。Runway・Luma AI・Midjourney・Firefly・Sora など、動画制作で主流のサービスは、商用利用の条件・学習データ利用のオプトアウト設定・IP補償の範囲・出力物の権利関係などが、数か月単位で書き換わることも珍しくありません。

契約時点では「商用利用可」「学習に使用しない」となっていたプランが、契約の途中で条件変更される──こうした事態は、受注者にコントロールできない不可抗力に近いリスクです。納品後に利用規約が変更され、想定していた利用条件が使えなくなった場合の責任を、一律に受注者が負うのは酷です。

そこで、基本契約書側に次のような趣旨の免責条項を置いておくことが推奨されます。

  • 使用する生成AIサービスの利用規約の変更によって、当初想定していた利用条件(商用利用の可否・学習データ利用のオプトアウト・IP補償の範囲等)が変動した場合、受注者はその変動について責任を負わない
  • 利用規約の重要な変更が判明した時点で、受注者は速やかに発注者に通知し、対応方針(サービスの切り替え・条件の再合意・再制作費用の負担等)を誠実に協議する

利用規約の変更は不可抗力条項(一般条項)で包括的にカバーする方法もありますが、生成AI動画制作では発生頻度が高いリスクのため、使用する生成AIサービスの条項内で独立して言及しておく方が、のちのトラブル時に主張しやすくなります。

代金の支払方法──フリーランス法の「60日以内」ルールに適合させる

報酬の支払いに関する共通ルールを定める条項です。支払通貨・支払方法(銀行振込が一般的)・振込手数料の負担者・支払期日が土日祝日に当たる場合の処理などを定めます。個別案件の金額や個別の支払期日そのものは、個別契約書で決めるのが通常です。

ここで必ずチェックしたいのが、成果物受領から原則60日以内という支払期日のルールです。フリーランス法の下では、発注者は成果物を受領してから原則として60日以内に報酬を支払う義務があります。基本契約書の支払条件がこの期限に反する形になっていないか、最初に確認しておく必要があります。

素材の提供──発注者支給素材の権利処理と、人物素材の時間軸リスク

動画制作では、発注者から素材(ロゴ・社員写真・過去の販促物・商品画像など)の提供を受ける場面があります。この条項で押さえるべきは2点です。発注者が素材について必要な権利処理を済ませていることを契約上保証してもらうこと、そして人物素材は「退職後の取扱い」まで時間軸で先回りして決めておくことです。

まず前段として、提供素材の範囲・提供方法・提供のタイミング、そして発注者側による権利処理の保証、素材の利用範囲(本件動画制作のみか、他の媒体への展開も可能か)を定めます。提供素材に起因する著作権侵害などが発生した場合の責任分担もここで整理しておくと、後のトラブルを未然に防げます。

人物の肖像(たとえば発注者の従業員をモデルにしたいという場合など)を素材として扱うときには、一段の注意が必要です。撮影時点では本人の同意が取れていても、当該従業員が退職したあとに動画の利用を継続できるか、本人から事後的に削除要請があった場合にどう対応するかなど、時間軸に沿った想定を条項に織り込んでおく必要があります。

知的財産権の帰属──「譲渡」ではなく「ライセンス」で組む

生成AI動画制作で最も悩ましい条項です。完成した動画や、その制作過程で生まれた各種の素材(静止画・プロンプト・企画書など)について、著作権をはじめとする知的財産権が誰に帰属するかを定めます。

ひとつの現実解は、権利はクリエイター側に残し、発注者には無償・無期限のライセンスを与えるライセンス構成を基本形として設計することです。従来型の「譲渡」条項をそのまま置くと機能不全を起こしがちなため、以下で見るいくつかの点に配慮した設計が必要になります。

AI動画に著作権はつく?──答えは「つくとは限らない」

動画・素材の著作権を扱う条項は、成果物が著作物であることを前提に作られているのが一般的です。ところが生成AIの領域では、出力物に著作権が発生するかどうか自体が微妙な判断になります。創作性はプロンプトの工夫や出力候補からの選択幅などによって事後的に認定されるため、制作時点では「これは著作物だ/著作物ではない」と確定的に言えないケースが少なくありません。

このため、著作権が発生するケースと発生しないケース(認定されなかったケース)の両方を想定したうえで、権利の帰属先・ライセンスの条件・利用の範囲をあらかじめ定めておく必要があります。

「著作権の存否は保証しない」という一文を契約に入れる

さらに一歩踏み込んで、成果物が著作物として成立すること自体を、受注者が発注者に対して保証しない旨を条項として明記しておくことを推奨します。たとえば次のような一文です。

受注者は、本件成果物について、著作権法上の著作物として成立することを保証しない。著作物としての成立が否定された場合であっても、受注者は発注者に対して何らの責任も負わないものとする。

一見すると発注者に不利に映るかもしれませんが、著作物性の認定は司法判断の領域であり、受注者がコントロールできる事柄ではありません。契約時点で「著作物として成立することを受注者がコミットする」構造にしてしまうと、後から著作物性が否定された場合に、債務不履行を問われるリスクを受注者側が一方的に負うことになってしまいます。

この一文を置いたうえで、前述のライセンス構成と組み合わせておけば、「著作物として成立してもしなくても、発注者は合意された範囲で本件成果物を利用できる」という実用上のゴールは確保しつつ、受注者側の責任は著作物性の認定リスクから切り離すという建付けになります。

「著作権は全部譲渡で」と言われたら──ライセンス構成を提案する

生成AI動画制作では、「すべて発注者に譲渡する」という構成は、クリエイター側の事業展開を狭めるおそれがあります。同じ素材・コンセプト・キャラクター設定を他のクライアントに横展開できることが、生成AI動画制作の効率性の源泉の一つでもあるためです。

受注者が権利を保持し、発注者に対しては当該動画の使用目的の範囲で無償・無期限のライセンスを与えるという構成が、双方にとってバランスの取れた落とし所になります。

「動画まではあなた、編集は別の業者」──乗り換えリスクに備える

ややビジネスライクな考え方にはなりますが、工程を段階的に区切って納品する進め方を採る場合、発注者が一部工程のみをより安い事業者に乗り換えるという展開もあり得ます。

例)静止画生成から動画化までは受注者が制作し、その後の編集・BGM付けだけをより安価な別業者に委託する

クリエイターとしては、こうした可能性も想定したうえで、ライセンスを行う場合のライセンスの範囲(利用目的・利用媒体・再委託の可否・第三者への素材提供の可否など)を検討する必要があります。

このようないわゆる「乗り換え」への対処は、本条(知的財産権の帰属)の中でライセンス条件として織り込む方法のほか、クリエイターの事業として特に懸念されるリスクである場合は、独立した条項を設けることも考えられます。たとえば、一定期間内の第三者業者への素材提供を制限する・編集等の後続工程を別業者に委託する場合は事前協議を要する、といった設計が検討対象になります。

ただし、著作権まで譲渡してしまうと、こうした乗り換えを契約上で制限することは容易ではなくなる点には留意が必要です。権利を手放したあとで「この用途には使わないでほしい」と言える余地は、実務上かなり限られてきます。この意味でも、譲渡ではなくライセンス構成で組むメリットは大きいといえます。

ボツ作品の権利は誰のもの?──採用されなかった素材の扱いを決める

いわゆる「ボツ」となった作品(採用されなかった静止画や動画)の著作権についても、譲渡を行うのか、ライセンスを出すのか、ここで原則のルールを定めておくことが推奨されます。

フリーランス法の注意点:譲渡・ライセンスの対価は明記が必要

譲渡やライセンスとする場合には注意すべき点があります。フリーランス法では、譲渡やライセンスの対価を明記することが求められているためです。報酬総額に含めるのか、別途の対価として明示するのかなど、フリーランス法を意識した条項設定が必要になります。

著作権だけじゃない──商標・意匠・特許・営業秘密も射程に入れる

知的財産権といっても著作権だけではありません。ロゴや企業・商品の名称などを動画に取り込む場合には商標権、キャラクターの造形などでは意匠権、独自の制作手法では特許権・実用新案権、これらに該当しないノウハウ部分では営業秘密など、動画制作に関連する各種の知的財産権が絡んできます。条項を設計するときは、著作権に限らず、動画制作に関連する各種知的財産権に抜け漏れがないように整理しておきましょう。

第三者の権利侵害──「非侵害保証」を安易に引き受けない

納品物が第三者の著作権などを侵害していないことを、受注者がどこまで保証するかを定める条項です。

「侵害がないことを積極的に保証する(非侵害保証)」という強い形にすると、万一の侵害時にはクリエイター側が全てのリスクを負うことになります。これに対して、「知る限りで侵害はない」「合理的な注意を払って制作した」といった**限定付きの保証(侵害非保証)**にすることも可能です。

生成AIを使う場合は、学習データに含まれる著作物との思わぬ類似が発生しうるため、非侵害保証を安易に引き受けないことが重要です。使用する生成AIサービスがIP補償(インデムニティ)を提供している場合は、その補償範囲も踏まえて、クリエイター側のリスク負担を設計します。

個人情報の取扱い──生成AIへの入力可否とDPA・データレジデンシーまで確認する

発注者の社員・顧客の画像・声・個人情報を扱う可能性がある場合は、個人情報保護法に従った取り扱いを定めます。基本ルールとしては、「業務上知り得た個人情報を第三者に提供・開示しない」「業務終了後は速やかに廃棄または返還する」といった内容を置きます。

ここで一般的な秘密保持義務では拾いきれない論点があります。個人情報を生成AIに入力してよいかどうか・入力する場合の条件・入力先サービスの個人情報保護水準──このあたりまで踏み込んで定めておくと、プライバシー関連のトラブルを未然に防げます。

生成AIの分野では、先に述べた法人プランの中にDPA(データ処理契約)またはプライバシーポリシーに関する条項が必ず置かれています。その内容や、サービス提供者のデータレジデンシー(データが送られるサーバーの所在地など)を確認しておく必要があります。この点は、前述の「使用する生成AIサービス」の条項とも密接に関係します。

さらに、生成AIに入力しない場合でも、画像素材等を通じて個人情報をクリエイターが受領することは大いにあり得ます。したがって、生成AIへの入力可否とは別に、受領した個人情報全般について個人情報保護法に則った取り扱いを行うことを規定しておく必要があります。

再委託──原則禁止+同等義務を課す

受注者が業務の一部を第三者に委託(再委託)してよいかどうかを定める条項です。

定型的な建付けとしては、原則禁止としたうえで、例外的に認める場合には再委託先に同等の秘密保持義務・個人情報保護義務を課すという形が通例です。案件の性質によっては、「一定の範囲(翻訳やBGM制作など部分的な業務)は自由に再委託できる」といった設計も選択肢になります。

一般条項──損害賠償の上限と合意管轄は必ずチェック

どの契約書にもほぼ共通して置かれる条項群です。守りの基本として押さえておきたいのは2点。損害賠償は「当該案件の報酬額を上限」とすること、そして合意管轄は「クリエイター側の拠点を管轄する裁判所」にしておくことです。

主要なものを簡単に説明します。

  • 権利義務の譲渡禁止:契約上の地位や権利・義務を、相手方の同意なく第三者に譲渡してはならないとする条項です。制作者が途中で勝手に入れ替わっては発注者が困り、逆もまた困るためです。
  • 不可抗力:天災・戦争・政府命令など、当事者の責任に帰さない事情で契約が履行できない場合の扱いを定めます。
  • 守秘義務/秘密保持:業務上知り得た秘密情報を外部に漏らさないことを定める条項です。生成AI動画制作では、秘密情報を生成AIに入力した場合の出力結果まで秘密情報の射程に含めておきます。
  • 有効期間:基本契約書の有効期間(例:1年)と、自動更新の有無・条件を定めます。
  • 契約解除:どのような場合に契約を解除できるか(相手方の債務不履行・信用不安・反社会的勢力該当等)を定めます。
  • 期限の利益喪失:相手方に信用不安が生じた場合などに、支払期限を前倒しして一括請求できるようにする条項です。
  • 契約終了時の措置:契約終了時に、引渡し前の成果物・前払金・預かった素材などをどう扱うかを定めます。
  • 損害賠償:契約違反により相手方に損害が生じた場合の賠償範囲・上限を定めます。賠償額に**上限(例:当該案件の報酬額を上限とする)**を設けることで、クリエイター側の過大な責任負担を抑えられます。
  • 反社会的勢力の排除:双方が反社会的勢力と関係がないことを表明し、関与が判明した場合に契約を解除できることを定める条項です。
  • 合意管轄:契約をめぐって紛争が生じた場合、どの裁判所で争うかを定める条項です。クリエイター側の拠点を管轄する裁判所を指定しておくと、万一の訴訟対応の負担を抑えられます。

AI動画の個別契約書に書くべき条項──フリーランス法第3条を出発点に

基本契約書で全工程に共通する土台を整えたら、次は案件ごとに発行する個別契約書に何を書くかです。個別契約書は、それぞれの工程・それぞれの案件について「何を・いつまでに・いくらで」という具体的な合意を定める書面であり、ここでの記載内容が足りないと、せっかく基本契約書を整えても実務レベルのトラブルを防ぎきれません。

個別契約書の設計で迷ったら、フリーランス法第3条の8項目を出発点に置くところから始めてください。以下、まずフリーランス法の適用範囲を確認したうえで、第3条が求める明示項目と、個別契約書に書くべき具体的な項目を整理していきます。

「副業だし関係ない」は誤解──AI動画クリエイターもフリーランス法の対象

ここは誤解されやすいところですが、従業員を使わない個人事業主であれば、副業でも、単発1案件でも、小規模な会社からの依頼でも、例外なくフリーランス法が適用されます

フリーランス法は、特定業務委託事業者(従業員を使用する法人等の事業者)が、特定受託事業者(従業員を使用しない個人事業主やひとり法人)に業務を委託する場合に適用されます。多くの生成AI動画クリエイターは、個人で活動している段階ではこの「特定受託事業者」に該当します。つまり、副業であっても、ひとりで活動している限り、企業から業務委託を受けた時点でフリーランス法の適用対象になるということです。

類似の法律である製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(略称:中小受託取引適正化法=取適法)は、発注者側の資本金規模によって適用対象が変わりますが、フリーランス法には資本金要件がありません。規模の小さな会社からの発注であっても、相手が従業員を使用する事業者であれば、業務委託に対してフリーランス法が適用されます。

また、3条の適用については他の条文と異なり契約期間による例外がありません。取適法の書面交付義務には一定の要件がありますが、フリーランス法第3条の明示義務は、単発の短期案件にも例外なく適用されます。「1か月未満だから関係ない」という例外はありません。

このため、生成AI動画クリエイターが企業から仕事を受ける場面では、事実上ほとんどの取引がフリーランス法の適用対象になると考えておいた方が、実態に合っています。

フリーランス法第3条が求める8項目──個別契約書の骨格はここから

フリーランス法の中核に位置するのが、第3条の取引条件明示義務です。第3条は、業務委託をする際に発注者がクリエイターに対して明示しなければならない事項として、次の8項目を挙げています。

  • 業務委託事業者(発注者)とクリエイター双方の名称
  • 業務委託をした日
  • クリエイターの給付(成果物)の内容
  • 給付を受領する期日・受領する場所
  • 給付の内容について検査をする場合、検査を完了する期日
  • 報酬の額
  • 報酬の支払期日
  • (現金以外で支払う場合)支払方法に関する事項

個別契約書に何を書くかを考えるときは、この8項目を出発点にすれば、最低限の骨格が自然にできあがります。

個別契約書のテンプレ項目一覧(基本契約書との役割分担つき)

第3条が求める明示項目は、前述の基本契約書+個別契約書の二層構造に当てはめると、きれいに振り分けられます。「双方の名称」「支払方法」「検査の方法・期日」などの共通項目は基本契約書で一度定めておけば足り、個別契約書ではそれを参照しつつ、案件ごとに変わる項目──業務内容・納期・報酬・実費──だけを記載すれば第3条の要求を満たせます。

個別契約書には、「本個別契約書は、○○基本取引契約書に基づき締結する」といった参照条項を冒頭に置いたうえで、次のような項目を記載するのが実務的です。

記載項目

内容

備考

件名・工程

「企画」「主要シーンの静止画生成」「動画化」など、当該個別契約でカバーする工程

工程ごとに個別契約書を発行する前提

業務内容

成果物の種類・数量・仕様(例:企画書1本、主要シーンの静止画5カット、動画素材15秒×3本など)

第3条④「給付の内容」に対応

納期

成果物の引渡し日

第3条⑤「受領する期日」に対応

納品方法・納品場所

メール/指定のクラウドストレージ/専用ツールなど

第3条⑤「受領する場所」に対応

検査方法・検査期日

基本契約書で定めた方法に従う旨の参照でも可。工程特有の条件があれば追記

第3条⑥に対応。基本契約書で定めてあれば省略可

報酬額

当該工程の報酬額。消費税・源泉徴収の取扱いも明記

第3条⑦に対応

報酬の支払期日

成果物受領日から○日以内など(フリーランス法の60日ルール遵守)

第3条⑧に対応

実費の負担

当該工程で発生する実費の取扱い(下記参照)

生成AI動画特有の重要項目

各工程特有の事項

企画段階なら方向性の合意方法、静止画段階ならキャラクター設定の固定範囲、動画化段階なら使用する生成AIサービスの指定など

工程ごとに異なる

当事者の名称・業務委託日・支払方法・検査方法といった基本契約書に既に記載した共通事項は、個別契約書では参照条項で足り、繰り返し記載する必要はありません

「これ実費ですよね?」と後から揉めないための実費の書き方

個別契約書で見落とされがちな、しかし後のトラブルに直結するのが、実費の取扱いです。生成AI動画制作では、従来型の動画制作では想定されなかった費用が発生するため、報酬に含まれるのか/別途請求できるのかを、案件の入り口で明確にしておく必要があります。

特に次の3項目は、個別契約書にあらかじめ取り決めを置いておくべき事項です。これらは入り口で決めておかないと後工程でほぼ確実に揉めます。

① 生成AIサービスのプラン使用料が、報酬に含まれるかどうか

生成AI動画制作では、ChatGPT・Claude・Gemini・Runway AI・Fireflyなどの生成AIサービスのプラン料金(月額課金・年額課金)が、制作原価の中で大きな比重を占めます。これらのプラン料金が、受注者の事業経費として報酬の中に含まれているのか、それとも案件ごとの実費として発注者に請求するのかを、はっきりさせておかないと「それは込みだと思っていました」と言われて回収できなくなります。

月額プランを受注者が通常事業用として契約しているケースでは報酬に込み、案件特有のサービス(たとえば発注者の要望で普段は使わないFireflyを契約した等)は別途実費請求、といった切り分けが現実的です。

② クレジットを使い切った場合・サンプルの追加が発生した場合の費用負担

生成AIサービスの多くは、プランに応じたクレジット(生成回数)の上限を設けています。発注者からの修正要求や追加サンプルの依頼が重なってクレジットを使い切った場合、追加購入するクレジット費用を誰が負担するかを決めておく必要があります。

当初の合意範囲内での生成であれば受注者負担、発注者の追加要求に起因する分については発注者負担、という整理が基本形になります。併せて、「クレジットを追加で消費する可能性がある場合は、事前に発注者の承諾を得る」という手続面の約束を入れておくと、費用の後出し請求によるトラブルを避けられます。

③ 想定と異なる生成AIサービスでの業務を求められた・求める場合の費用負担

当初は受注者が通常使用しているサービスで進める予定だったものの、途中から発注者の意向で別の生成AIサービスへの切り替えが求められる(例:「IP補償のあるFireflyで作り直してほしい」等)ケース、あるいは受注者側から別サービスの使用を提案するケースが起こりえます。

この場合、新たに契約するサービス料金・切り替えに伴う再制作コストを誰が負担するかを、事前に整理しておく必要があります。発注者の要望による切り替えであれば発注者負担、受注者の提案による切り替えであれば原則受注者負担だが、品質向上が発注者の利益にも資する場合は協議、といった方向での条項設計が考えられます。

📌 ひとこと: 実費の定めは、基本契約書で「実費は事前に発注者の書面による承諾を得たうえで請求できる」といった共通ルールを置いたうえで、個別契約書では案件ごとに具体的な実費項目と見積額を列挙する、という二段構えが実務的です。

業務内容は「含まれるもの」と「含まれないもの」をセットで書く

業務委託の内容を記載する際の実務上のテクニックとして、業務内容を記述するのみならず、業務内容に含まれない項目を併記するという方法があります。

これにより、何が業務外の項目であるのかを明確化し、業務範囲に類似する業務として、本来予定していた業務範囲が無制限に拡大しないように歯止めをかけることを期待できます。生成AI動画制作の場面では、特に次のような項目が「含まれないもの」として明記の対象になります。

  • 納品後の修正対応(合意した確認期間を過ぎた後の修正要求)
  • 使用する生成AIサービスの変更に伴う再制作
  • 発注者側で用意すべき素材の収集・権利処理
  • 動画の配信・運用・広告出稿等の後工程
  • 二次利用・媒体追加に伴う追加制作

たとえば、次のような書き方が考えられます。

第○条(業務内容)

1.
受注者は、本個別契約に基づき、次の業務を行う。 ① 主要シーン用静止画の生成(5カット) ② 各カットの修正対応(各カットにつき2回まで)

2. 次の事項は、本業務に含まれない。これらが必要となる場合は、別途個別契約を締結するものとする。 ① 3回目以降の修正対応 ② 指定外の生成AIサービスを用いた再制作 ③ 本件成果物を動画化する工程以降の作業

「業務内容」欄だけに書き込んでいると、発注者から類似業務の追加依頼を受けた際に「これは業務範囲内ですよね」という主張を防ぎにくくなります。含まれないものを明示しておくことで、追加業務は追加発注として扱うという運用が、契約上の根拠を持って主張できるようになります。

AI動画の仕事を受ける前に、この4点を押さえよう(まとめ)

ここまで、生成AI動画の副業で企業から仕事を受ける際に押さえておきたい契約上のポイントを、商談 → 受注 → 企画 → 静止画 → 動画化 → BGM・ナレーション → 動画編集という流れに沿って見てきました。最後に、本記事の要点を整理しておきます。

① 「営業」と「業務」の境界線を自分の中で引く

「ぜひお願いしたい」「社内稟議が通るのを待っている」という言葉は、それだけでは契約の成立を意味しません。報酬・業務内容・納期が書面(または電磁的記録)で明示されて初めて、「業務」が始まります。サンプル制作やツール契約を自腹で先行させるときは、どこまでが無償の営業活動で、どこからが有償の業務なのかを自分の中で決めておくことが、ツール費用だけ負担して案件が立ち消えになる事態を防ぎます。

② 一般的な業務委託契約は、生成AI動画制作には合わない

「出力ガチャ」や微調整の効かなさといった生成AI特有の性質を踏まえると、完成形を前提とした一般的な業務委託契約をそのまま使うと、リスクがすべてクリエイター側に集中します。工程ごとに区切って合意を重ねる進め方と、それを契約に落とし込む基本契約書+個別契約書の二層構造が、現実的な解です。

③ 基本契約書には、全工程に共通する土台を盛り込む

目的条項・適用範囲・使用する生成AIサービス・知的財産権の帰属・秘密保持・実費の取扱いなどを、一度整えておけば今後のどの案件でも使えます。特に使用する生成AIサービス・プランの合意と、譲渡ではなくライセンスで組む知的財産権条項は、生成AI動画制作ならではの設計ポイントです。工程を区切って納品する場合の**「乗り換え」リスク**も、ここで併せて検討しておきます。

④ 個別契約書は、フリーランス法第3条を出発点に書く

フリーランス法には資本金要件も契約期間要件もなく、個人で活動する生成AIクリエイターのほとんどが適用対象になります。第3条が求める8項目のうち、基本契約書で既に定めた共通事項は参照で足り、個別契約書では案件ごとに変わる業務内容・報酬額・納期・実費を記載します。特に実費の定め──生成AIサービスのプラン料金、クレジット追加購入、サービス切り替えコストの負担──は、生成AI動画制作の契約で後のトラブルに直結しやすい論点です。

いかがでしたでしょうか?このような基本契約書や個別契約書は一度ひな形を作っておけば、これをブラッシュアップしていくことで何度も使え、またご自身のビジネススタイルになじんだフレームワークになっていきます。

当事務所では、このような生成AIに関する契約書作成業務を行っておりますので、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

この記事の内容でお困りですか?

法律相談もお見積りも、まずはお気軽にフォームからご連絡ください。原則1営業日以内にご返信します。

AI動画副業の業務委託契約|基本契約書・個別契約書・フリーランス法まで弁護士が徹底解説 | tAiL.法律事務所