生成AIで契約書は本当に作れるのか?3つの構造的限界と正しい活用戦略

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生成AIで契約書は本当に作れるのか?3つの構造的限界と正しい活用戦略

概要

本記事は、生成AIで契約書を作成する際の3つの構造的限界(入力層・情報処理層・出力層)を解説したものです。中小企業の経営者や法務担当者が、コスト削減を期待して生成AIを導入する際、知らずに法的リスクを抱える危険性を指摘し、「行き当たりばったり」ではなく「自社データを構造化した計画的活用」こそが成功の鍵であることを、生成AIに取り組む弁護士の視点から明らかにします。生成AIの本質的な限界を理解し、実務で失敗しない判断基準を得られます。

記事執筆の背景

近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、「生成AIで契約書が自動作成できる」という期待が高まっています。特に中小企業では法務部や法律専門家がいないケースも多く、弁護士に依頼すると簡単な契約でも5万円前後、3〜5通作成すれば25〜50万円という費用がかかります。それが月額20ドルのChatGPTで作れるなら、という気持ちは非常によくわかります。

しかし、生成AIに取り組む弁護士として実務に携わる中で、大小様々な問題を感じています。生成AIの普及があまりに早く、その「仕組み」への理解が追いついていないように感じるためです。表面的な便利さだけが注目され、生成AIがどのような原理で文章を出力しているのか、法律や契約書という専門分野でどんなリスクがあるのか——こうした領域への配慮がないまま生成AIが使われている結果、法的リスクを見落とすケースが散見されます。

本記事では、「プロンプトを工夫すれば良い」という表面的な話ではなく、生成AIと契約書作成の構造的な限界を明確にした上で、正しい活用戦略をお伝えします。まずは仕組みを理解すること。その先に、はじめて実務で使える活用法があります。

生成AIを契約書作成に用いる場合に気を付けるべき3つの問題点

生成AIを契約書作成に用いようとする場合、契約書に限った話ではありませんが、生成AIの構造は、「入力→入力情報の処理→出力」の3つのパートが存在します。
この記事で紹介する注意点もこの構造に沿った内容となっており、より論点を深ぼっていく際に構造的に把握できるようになっています。

入力層問題:生成AIは受け取った情報しか処理できない

例えば、「売買契約書を作って」「業務委託契約書を作って」と生成AIに依頼したとします。生成AIは確かに契約書を作成してくれますが、出力されるのは極めて無難な、一般的なテンプレートです。それなら、書店やネットで販売されている弁護士監修の契約書テンプレートを使えば十分ではないでしょうか。

生成AIを使う意味があるとすれば、それは「自分の状況にパーソナライズされた契約書」を作りたいからのはずです。たとえば、債権回収リスクが高い取引先との契約、知的財産の権利関係が複雑なプロジェクト、特殊な業界商慣習への対応——こうした個別事情を反映した契約書を作成するためには、その背景情報をすべてプロンプトで伝える必要があります。

しかし、ここに大きな問題があります。多くの方は「何を入力すべきか」が把握できていないのです。すでに頭の中で契約内容が法律的に整理できており、具体的な条項のイメージまで固まっている方であれば、生成AIに「実行してもらう」使い方は有効でしょう。しかし、まだ何を作りたいか法律的に整理できていない段階では、生成AIに丸投げしても意味がありません。むしろ書籍のテンプレートを使った方が、よほど良いものができます

さらに、取引の現場で「見たり」「肌で感じたり」「空気で読み取った」情報——取引先との力関係、過去のやりとり、業界の暗黙のルール——これらは言語化が極めて困難です。テキストボックスに入力できる情報には限界があり、生成AIは入力された情報しか処理できません。この「入力の限界」が、そのまま「出力の限界」になるのです。

情報処理層問題:生成AIは確率的な出力で法的思考をするわけではない

生成AIがどのように契約書を作成しているのか、その処理プロセスを理解することが重要です。生成AIは、入力された情報をもとに、膨大な学習データから「統計的・確率的に最も近い表現」を選択して出力します。これは自然言語処理において非常に優れた能力ですが、ここに大きな落とし穴があります——生成AIは「法的思考」を行っているわけではないのです

たとえば、「売買契約書を作って」と依頼したとします。この「売買」が何を指すかによって、法的な構成は全く異なります。

- 有体物(車など)の売買:所有権が移転し、物理的に移動する。物権法の適用。

- 無体物(データなど)の売買:コピーが相手に渡り、双方がデータを持つ状態になる。知的財産法や債権法の適用。

同じ「売買」という言葉でも、法律的には全く異なる処理が必要です。しかし生成AIは、「有体物だから所有権があって物権法が適用されて…」という概念的な理解に基づいて出力しているわけではありません。単純に「売買」という言葉にセマンティック(意味的)に近い契約書のパターンを学習データから探し出し、自然言語処理で微調整しているに過ぎないのです。

これは法律分野では致命的になりえます。法律実務では、抽象的な概念の操作、柔軟な解釈、個別事情への適用——こうした「リーガルマインド」と呼ばれる思考が不可欠です。一方、生成AIは「統計確率的な正しさ」を追求する仕組みであり、この根本的な違いを混同すると危険です。

生成AIが有効なのは、すでにパターン化されている領域——たとえば自社で何度も使っている「手垢のついた」テンプレート契約書の微修正や、定型的な条項の言い換えといった場面です。逆に、柔軟な法的思考が必要な場面では、セマンティックなパターン化出力では対応できません。

出力層問題:契約の場面において「正解」条項など存在しない

たとえば、ChatGPTのDeep Researchなどを使って秘密保持契約書を作成すると、かなり質の高い出力が得られることがあります。これは秘密保持契約が世界中の法律事務所でテンプレートとして公開されており、学習データが豊富だからです。弁護士の目から見ても、それほど悪い内容ではない契約書が生成されるでしょう。

しかし、ここで重要な問題が浮上します。

たとえば、生成された契約書に「秘密保持期間:契約終了後3年間」という条項があったとします。この「3年」という数字は、パターン化された情報に基づいて生成されたものです。では、この条項をそのまま採用すべきでしょうか?それとも5年に延ばすべきでしょうか?あるいは1年で十分でしょうか?

契約条項に「客観的な正解」は存在しません。

たとえば、損害賠償条項で自社の責任を免除する条件を盛り込むことが「正解」とは限りません。そうすることで取引先との契約が成立しない可能性もあるでしょうし、自社の商品やサービスに自信があるなら、むしろ責任を引き受けることで競争優位を築ける場面もあります。

契約書の条項は、ビジネスモデル、リスク許容度、取引先との関係性、事業戦略——こうした要素を総合的に判断して、経営者が「選び取る」ものです。主観的な正解はあっても、客観的な正解はありません。生成AIは、この主観的な判断を代わりに行うことはできないのです。

つまり、どんなに優れた契約書が生成されても、それを評価し、採用するかどうかを判断する経営判断のプロセスは必ず残ります。

生成AIの契約書作成問題から見えてくるもの

ここまで見てきた入力層・情報処理層・出力層の3つの問題点から、一つの結論が導かれます。それは、「行き当たりばったりの生成AI活用は勧められない」ということです。

「明日、取引先と契約書を締結しないといけないから、とりあえず生成AIで作ろう」——このようなインスタントな使い方では、前述した3つの限界すべてに直面することになります。この場合は、むしろ弁護士が監修している一般書籍のテンプレートを購入した方が、よほど安全で確実です。

では、生成AIを契約書作成に活用する正しい方法とは何でしょうか?

生成AIの強みを活かす3つのポイント

1. 領域を絞り込む

まず、生成AIを使う領域を明確にしましょう。自社で頻繁に使用する契約類型、定型化されている契約——こうした「パターン化可能な領域」に絞り込むことが重要です。

2. 自社データを構造化する

次に、過去の契約交渉履歴、修正パターン、社内での議論や意思決定の記録——これらをデータ化し、生成AIが処理できる形に構造化します。「この条項でこういう修正案が来たときは、こう対応する。なぜなら、過去にこういう議論があり、こう決定したから」といった社内ナレッジを整理するのです。

これは一見、泥臭い作業に見えるかもしれません。しかし、この準備こそが生成AIの真の強みを引き出す鍵となります。生成AIの価値は、単に契約書を「作る」ことではなく、自社の蓄積された知識を活用して、パーソナライズされた契約交渉を可能にすることにあるのです。

3. PDCAサイクルで継続改善

最後に、生成AIの出力を鵜呑みにせず、自社の事業計画、営業戦略、契約管理の実態と照らし合わせながら、継続的に見直していきます。「生成AIはこう提案しているが、自社の方針とずれているから、データセットを調整しよう」——こうしたPDCAサイクルを回すことで、生成AIは自社にとって本当に使えるツールに育っていきます。

まとめ

生成AIは、使い方次第で強力なツールになります。しかし、それは「行き当たりばったり」ではなく、自社のパターン化された知識を基盤として、計画的に活用することが前提です。領域を絞り、データを整理し、継続的に改善する——この体制があってはじめて、生成AIは契約書作成において真の価値を発揮します。

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