ChatGPT導入を検討する企業に向けて
最近、ChatGPTをはじめとする生成AIの活用に興味を持つ企業が増えています。しかし実際には、導入に踏み切れていない企業も多いのではないでしょうか。
その背景には、「生成AIを使ってどれくらい利益につながるのかイメージしにくい」というのが本音があるように思います。加えて、専用モデルを使うべきか、著作権や個人情報の問題はどうなのか、入力した情報が学習に使われるのではないか——こうした不安や疑問が錯綜していて、様子見になっている企業が少なくありません。
一方で、導入を前向きに検討している企業には共通する危機感があります。それは「生成AIを使いこなせないと、時代に取り残されてしまう」という感覚です。新しい技術が出てきたときにどう反応するかは、いつの時代も問われてきたことです。
【戦国時代の武将も鉄砲を導入すべきか悩んだと思います】

生成AIに関して言えば、生成AIに対する企業側の反応には特徴があるように思われます。企業向けのセミナーでChatGPTや生成AIの使い方を紹介する機会がありますが、目の前でパソコンを開いて実際に動かして見せると、多くの方から「危機感を覚えました」というコメントをいただくことが非常に多いと感じます。生成AIは何となく知っていたけれども、実際の動きを見て、仕事の在り方や「取り残される感」に対する衝撃があったからだと推察されます。
とはいえ、危機感を覚えてもなかなか導入に踏み出せない。その根っこにあるのは「誰がリスクを取るのか」という問題だと思います。導入に失敗したら責任を問われる。でも何もしなければ時代に取り残される。この板挟みの中で、多くの経営者が足踏みしているのではないでしょうか。
そこで本記事では、当事務所が様々な生成AI活用をする中で、最も汎用的で、データの権利義務のリスクが相対的に低く、売上やブランディングなどROI的に結果を出しやすい使用例を紹介したいと思います。
また、私自身が法律事務所を独立開業するにあたり、Webサイトを構築・運用する中でぶち当たった課題と、それをどう乗り越えたのかをお伝えします。そして、その過程で弁護士として感じた法的な論点についても共有できればと思います。
web制作への利用方法に関心がない方でも、生成AIを使った活用事例の思考方法として参考にしていただければ幸いです。
【過去実施セミナー〖弁護士が語る生成AI時代の「勝てる経営」思考法〗資料より】

独立開業時に直面したウェブサイト運用の課題
生成AIをビジネスで活用しようとするとき、最初に考えるべきことは「何を解決するか」です。生成AIを使うこと自体が目的ではなく、これまで効率よく解決できなかった課題を解決するためのツールとして捉えることが重要です。つまり課題ありきで、その解決手段として生成AIを位置づけることが重要です。
セミナーや相談の場でよく受ける質問に「どの生成AIを使うのが正解ですか?」というものがあります。しかし正直なところ、この記事の執筆時点ではどのモデルを使っても大きな差はないと感じています。ChatGPTを使っていても、後からすごいモデルが出てきて追いつき追い越され、また追い抜き返す——そんな開発競争が続いています。
例えば、2026年はMCPの普及やGemini(googleの生成AIモデル)のバージョンアップにより、googleサービス圏ともいえる総合的な生成AIプラットフォーム化が生じるのではないかと思われますが、昨年の今頃はChatGPTよりSora(動画生成AI)などが公表され、OpenAI社が全体をリードしていた印象がありました。
この傾向が続くとなるとモデルに固執するよりも、使い方をよく考えて、その時々の課題に合ったモデルやサービスを選ぶ方が現実的でし、だからこそ、ビジネスで活用しようと思ったら、まず考えるべきは自社のビジネスそのものです。売上が足りていないのか、経費を使いすぎているのか、利益率はどうか——こうした基本的なところから自社の課題を分析することが重要になります。
当事務所に例えていえば、開業したての段階で、事務所webサイトを立ち上げようと持った際に、外部の制作会社に依頼すれば100万円単位のコストがかかる状況でした。開業したてでそこまでの投資は難しい。一方で、テンプレートベースの低価格サービスでは柔軟性が足りず、自分が思い描くWebサイトを作ろうとするとカスタマイズ性に限界がある。「コストを抑えたい」と「自由に作りたい」の板挟みで、両立できる方法が見つからない状態でした。いかに低価格で、スタートの広報やブランディングを賄うかという点に生成AI活用を検討したという具合になります。
当時から、私にはWebサイト制作の知識がまったくありませんでした。知識をつけるところから始めなければならない。構築した後の運用もどうすればいいかわからない。すべてを外注すれば大きなコストがかかり、自分でやろうとすればテンプレートの制約に縛られる。この八方塞がりの状況を打開するために、生成AIを活用することにしました。知識のインプットから実際の構築、そして運用まで、生成AIにサポートしてもらう形で進めていったのです。
この課題は法律事務所に限った話ではないと思います。特に中小企業では、ホームページが何年も更新されていなかったり、そもそもWebサイトを持っていなかったりするケースも珍しくありません。理由はさまざまでしょうが、今この生成AIの時代に、そうしたハードルはかなり下がっています。Webサイトの運用に課題を感じている企業があれば、ChatGPTなどの生成AIを導入して解決に取り組んでみるのも一つの手段ではないでしょうか。
それから、課題の設定については少し深堀があった方がよりよい活用に繋がりやすいといえます。例えば「人手不足」を課題に挙げる企業は多いですが、本当に人間の数が足りていないのか、それとも業務の効率化ができていないから人が余計に必要になっているのか。後者であれば、採用よりも先に業務改善に取り組むべきかもしれません。生成AIの導入を検討する前に、まず自社の課題を正確に把握することが大切です。
【過去実施セミナー資料より】

生成AIを活用したウェブサイト構築・運用の流れ
セミナーでもお話しさせていただいていますが、私も元々エンジニアなどではなく、純粋な文系(法学部)の学生でした。

そんな中、最初にやったことは、ChatGPTに自分の課題や問題意識を共有することでした。こんなことがしたい、あんなことを実現したい——そうした要望を伝えて、それに対する情報提供を求めるところからスタートしました。
次に取り組んだのは、Webサイト制作に必要な基本知識の学習です。HTMLやCSS、JavaScriptといった、中学校で触れたような基礎的な内容から始めて、TypeScriptやTailwind CSS、Next.jsといった現代的な技術スタックまで学習を進めていきました。
もちろんChatGPTだけでなく、YouTubeの解説動画なども活用しましたが、わからないことがあればすぐにChatGPTに質問できる点が非常にありがたかったです。自分が理解できるまで何度でも繰り返し質問できる。これは従来の学習方法にはなかった大きなメソッドでした。
その後、CursorというAIエディターがリリースされ、これを使ってホームページの作成に取り組みました。Cursorも登場当初と比べるとかなり進化していて、今では実際に作っているWebページを見ながら指示を出せるようになっています。これは非常に便利だと感じています。
【Cursorの新機能でブラウザ上の見た目で修正箇所を指定できます】

さらに最近では、CometやAtlasなどのブラウザエージェントも発達してきました。
Webサイトを公開したら、次はサイトの分析が必要になります。GoogleアナリティクスやSearch Consoleといったツールのデータを、ブラウザエージェントを使って分析してもらっています。自分たちがどういう検索ニーズに応えられているのか、SEOの観点からどうなのか——こうした内容をブラウザエージェントに報告してもらい、改善点を洗い出します。
改善点が見つかったら、それをまたCursorで反映させる。改善効果が出ているかどうかは、再びブラウザエージェントでGoogleアナリティクスやSearch Consoleを分析して確認する。このサイクルをぐるぐる回しながら、Webサイトの設計・運用・改善を進めているイメージです。ほとんどの工程で生成AIが関わっていて、それぞれの役割を分担させながら運用しています。
整理すると、Webサイト構築・運用の流れは以下のようになります。
- ChatGPT:作り方を教えてもらう、知識をインプットする
- Cursor(AIエディター):実際にWebサイトを構築/改善する
- ブラウザエージェント:公開後のサイト分析を行う
実際に使ってわかった効果
生成AIを使ってWebサイトを構築・運用してみて実感したのは、モデルやバージョンがアップデートされるたびに、非エンジニアでもWebサイトを作れる環境が整ってきているということです。コードを書いたことがない人でも、勉強して構築して運用していける——そうした便利機能が標準搭載されるようになってきた感覚があります。
Webサイトの制作費用も抑えられますし、記事投稿のような作業もどんどん簡易化できています。実際、この記事自体も生成AIを活用して作成しています。具体的には、音声入力を記事化してもらったり、記事のサムネイル画像を画像生成AIで作成したりしています。記事や好みに合った画像がすぐに手に入るのは大きなメリットです。
近時「The GenAI Divide STATE OF AI IN BUSINESS 2025」というレポートが公表されており、「95%の組織が生成AIによる何のリターンも得られていない」という衝撃的な内容ですが、その中で触れられていたのは、生成AIによるROIは従業員削減よりも外部委託費削減効果から出てくる旨の記述がありました。当事務所もこの文脈でROIを得ているパターンになります。
参考までにですが、当事務所のウェブ運用は週1~2回の頻度、1回2時間前後ほどの作業量、月1万円以下(全サービスやドメイン料込)で回しています。
また公開している記事コンテンツなどを再利用して、サービス紹介資料等の作成に繋げていたりなどしています。
【記事コンテンツなどを利用した提案資料作成活用例】

弁護士として見えた法的課題
生成AIを活用したWebサイト制作を通じて、弁護士として見えてきた法的課題がいくつかあります。
まず前提として、データに対する法律上の権利義務を改めて認識し直すことが、企業法務において非常に重要になってきているという点です。主な項目としては、著作権、個人情報、企業秘密や守秘義務のあるデータなどが挙げられます。最近話題になったものでは、声優の声データや「〇〇風」と呼ばれるような画像の特徴的な部分の取り扱いも、今後の法的論点として取り上げられ続けるでしょう。また、生成AIの出力をビジネスに活かす際に、人間がチェックしなかったことによる法的問題も考えられます。
こうした前提を踏まえた上で、実際に生成AIを使う中で感じた法的課題を3点お伝えします。
1. 複数の利用規約が複雑に絡み合う
生成AIのメリットを理解して積極的に活用しようとすると、単一のサービスでは収まらなくなってきます。この記事で紹介したものだけでも、ChatGPTで知識をインプットし、Cursorでサイトを構築し、Midjourneyでサムネイルを作成し、Cometでサイト分析を行う——といった具合に、複数のサービスを組み合わせて使うことになります。
そうなると、各サービスの利用規約を把握した運用が必要となります。データやサービスの利用規約に関する法律はIT法務の領域で、一般的な企業法務では馴染みが深いとは言えません。利用規約の分量もサービスによってはかなり多いのも難易度を上げていると思われます。関連する法令がメジャーではない、読まなければならない利用規約が多い、それらがパズルのように絡み合う——これを中小企業の法務担当者が読み解いて運用していくのは、かなりの負担だろうというのが率直な感想です。
例えば、OpenAIの利用規約を読み解くだけでも結構な分量があります。また、一部の規約は正式な言語が英語のみという点も負担となっているポイントになります。
OpenAI利用規約ページ
2. 新しい法的論点への対応が求められる
生成AIの領域では、これまで想定されてこなかった新しい法的論点が次々と生じてきます。
Webで検索しても答えが見つからないケースが多い。新しいユースケースや新しい問題が発生しやすい領域だと感じています。
この典型が、声優さんの声の利用や「~風」と言われる画像生成の問題です。
そうなると、法的な思考能力やリーガルマインドが必要になってきます。単にWebで検索して答えを調べて対応するという方法だけでは厳しい部分が出てくるでしょう。自社のリーガル部門が自ら考えて方向性を出していく姿勢が求められます。新しい論点なので面白いといえば面白いのですが、既存の情報だけでは対応しきれない可能性が高い領域です。
3. 技術的な理解が不可欠
法律の知識だけでは足りず、技術的な理解がどうしても必要になってきます。
たとえばブラウザエージェントを使う場合、どんな情報がAIに渡っているのかを分析しなければなりません。その際、「DOMの情報がモデルに渡っています」と説明されても、DOMが何かわからなければ議論が進みません。また、一時期注目されたRAG(検索拡張生成)においても、embeddingのような埋め込み処理がどう行われているかを理解していないと、法律的な知識が十分であっても具体的な議論に落とし込めません。
著作権に詳しくても、実際にどんなデータがモデルに渡っているのか技術的に把握できなければ、著作権侵害の有無や侵害のタイミングといった具体的な検討ができないのです。弁護士の専門家は技術者と意見交換をしていることも多いですが、企業法務においても、法務と技術が交差する領域への理解がますます重要になってきています。
生成AI活用を検討する方へ
ここまでお読みいただきありがとうございます。
生成AIを導入したいけれど、リスクが気になって踏み出せない——そんな企業は少なくありません。しかし、適切なユースケースを選び、法的なポイントを押さえれば、生成AIは強力な武器になります。
当事務所は、生成AIの実務活用と法的サポートの両面からご支援しています。まずは「自社で何ができるか」を一緒に整理するところから始めてみませんか。お問い合わせをお待ちしています。

