あらまし
企業が魅力的な製品を開発し、これを広めたいと考えた場合、IT開発企業などの製品やアプリ開発に特化した組織体であれば、販路を十分に持たないことから、マーケティングに長けた社外サービスを利用したいと思うことは自然なことです。
そんな中で起きたのが、この事件です。とある東京の企業が京都の企業から、M&Aの対象となる取引先の仲介の紹介をするよう委託を受け、実際に紹介も行われ、事業譲渡も終えたが、いざ蓋を開けてみたら客先が期待していた条件を満たしていなかったという衝撃の事実に直面します。
当然、この京都の会社は当初の思惑とは異なる事情の展開に、紹介を受けた客先との契約関係を解消しようと動きます。
これに対して、紹介を行った東京の企業は、京都側の理由には納得いかない。報酬を払ってほしいと報酬金の支払いを求め訴訟を起こしたという事件です。
この事件はいわゆるM&Aに属する取引の事例ではありますが、そのスキームは社外の第三者と連携して自社能力を超えるマーケットにリーチするという点で販路拡大と似た性質を有しています。自社商品や製品開発の顧客を模索したい場合でも同様の経営法務が関与する余地が十分に見込まれる状況です。
販路拡大と経営法務
自社の製品を世に広げていきたいと考え、マーケターと言われるような社外組織にその機能をお願いしようと思う場合、法的には大きく3つの方法が用意されています。
- 販売店方式:法的には売買と転売を基本的な枠組みとして持つ構成
- 代理店方式:委任契約を基本的な枠組みとして持つ構成
- 仲介方式:代理店方式から契約など法的な権限を取り除いた業務委託を基本的な枠組みとして持つ構成
区分方法としては、販路拡大の際に、連携先にいったん売って広げるのか、連携先のサービスを利用して展開するのかという点で販売店方式かどうかが分かれ、サービス内容に法律的な権限が入るかどうかで代理店と仲介方式が分かれる構造になります。
経営目線からすれば、在庫リスク、商品価格、エンドユーザーとの責任関係、売り上げ計上のタイミングなどのようなカテゴリでそれぞれの方法が区別されます。一般的には、日用品と呼ばれるような標準規格かつ低価格商品であれば販売店方式が採用されやすく、量販店などがこのカテゴリに属します。特別規格かつ高価格商品であれば仲介方式が採用されやすい傾向があり、文字通り不動産仲介などがこのカテゴリに属します。
今回の事案では、M&Aという企業買収に関する項目であるということから、仲介方式が採用された。といった具合です。
仲介方式は何も物理的な商品に限った話ではありません。企業用の基幹的なシステムや、大規模な導入を前提とするシステムなどにおいても同様に仲介による販路拡大が馴染む場合もあります。
仲介契約において争点となったポイント
本件を例にすれば、化粧品事業の事業譲渡において、どこまでの条件が紹介すべき客先として合意されていたかという点に焦点が当たっています。事案を単純化すれば、化粧品事業の取得のため、候補企業の選定を行い、これを実行する契約締結後に、化粧品に含まれる成分について、国内事業に重大な支障を与えるものが含まれていることが判明したという流れになります。
構造的に分析すると、仲介のような顧客紹介型の契約類型においては次のような点の重要性が浮き彫りになったということです。
- 紹介すべき顧客の属性や条件についての基準設定
- 基準に実際紹介した顧客が設定基準に適合しているかどうかの検証責任を誰が負うか
事案の性質やケースによって異なる部分もあるかと思いますが、この事例で東京地裁は、M&Aのような取引類型において、この手の取引が持つ、何らかの問題がある企業を取得し、自社のノウハウや技術を用いて改善し、事業収益に繋げる構造や、契約交渉においては取得者が取得対象企業やその事業を検証することが通常であることなどを述べ、本件で問題となった成分検査結果のリスクを取得側の企業に負わせたということができます。
ITなどの無形商材への応用
ITアプリの導入においても類似の構造が生じると思われ、例えば、販売管理システムの更新を検討している企業の仲介を外部企業に委託した場合であって、実際に導入できるかどうかの具体的な企業システムの検証や、具体的な会社のシステム運用体制などで導入困難であることが判明したとしても、それはネットワークを資産として活用している仲介企業よりも、技術的な分野に長けているIT企業の方が知り得る情報であるし、実際の詳細な開発計画や要件定義段階においては、IT企業が当事者となるのだから、その責任を仲介会社に負わせようとするならそれ相応の特別な根拠が必要というように整理できます。
その他論点として、報酬発生時点についての論点にも触れられています。
紹介から契約が発生した時が基準となっていたのが本件でしたが、これが譲渡契約の解除(つまり、紹介してもらい、いったん契約したが、その契約が後から白紙に戻されたこと)によって報酬もまたなくなるのかという話です。
これについても、上記の検証責任と連動しているところがあると思われ、本件でいう検証責任を紹介を受けた企業側が負うのであれば、そのミスによって契約が解除等されても、それによって報酬がなくなるわけではないという判断となっています。
この事例から得られる示唆
販路拡大の方法として仲介契約のスキームを選択する際は、どんな企業や人を紹介してほしいのかという基準と、実際の企業等がその基準に適合しているかどうかを誰が判断するのかという項目の設定と検証が必要ということがこの事件の示すところです。
本質的なところでいえば、仲介においては、リーチしたい顧客のペルソナ設定の粒度が極めて重要ということが言えると思います。この粒度が高ければ、そのような顧客の問題や課題をどのように改善していくのかというストーリーを具体的に思い浮かべることができ、そこから詳細な検証プロセスなど、理論から実社会への橋渡しが可能となってくるからです。
以上のように、この記事では販路拡大時における仲介スキームを題材にその重要なポイントの1つを解説しました。
今後、販路拡大を図りたい企業、仲介スキームを今まさに検討している企業様などいらっしゃいましたら、ぜひ法律相談からご検討いただけますと幸いです。

