従業員がフリー素材と誤信して他人の画像を使用した場合の会社の責任

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従業員がフリー素材と誤信して他人の画像を使用した場合の会社の責任

概要

企業のSNS担当者や中小企業経営者の方に向けて、従業員が誤って有料画像を使用した場合に企業が法的責任を負うかを、大阪地裁令和7年6月5日の判例をもとに解説しています。民法715条による使用者責任や著作権法114条3項の損害算定方法、価格表が必ずしも採用されない実務判断の基準を紹介し、著作権教育や素材チェック体制の重要性を分かりやすく説明しています。

*この事例では、大阪地裁令和7年6月5日を参考に、従業員が無断で画像を業務に使用した場合の法律関係について解説します。

従業員が無断で画像素材を使用した場合に法人が責任を負うのか?

この事案は、従業員が本来有料の画像をフリー画像と誤信して、コーポレートサイトに掲載してしまった結果、クリエイターから損害賠償を受けたという事案になります。あくまで個人的な推測となりますが、裁判まで発展した背景に、著作権侵害額について当事者間で相容れない部分があったところもあるのではないかと思われます。

最近では、企業でもSNS運用などで集客やブランディングを行う手法が普及してきており、SNS担当部署を設置する企業もあると聞き及びます。そのような折、投稿したコンテンツに対して、ある日、クリエイターから著作権侵害として相応の額の損害賠償請求が来たらという視点で本コンテンツを読んでいただければ幸いです。

法的にこの問題を考えていく際に、参考事案でも主張がなされていますが、「投稿した従業員の行為に法人が責任をとらなければならないのか」という問題があります。別の言い方をすれば、企業としては、従業員が勝手にやったことで、企業としては預かり知らない内容なのだから請求は本人に行ってほしいという趣旨の話になります。

この問題に関する法令が、民法の715条(使用者等の責任)という条文になります。このルールは、企業など他人を使用して事業を営む場合には、これによって自身の活動範囲を広げ、利益を得ているのであるから、被用者が事業の執行について他人に損害を与えたときもまた、賠償の責任を負うべきという報償責任の条文として定められています。
注意点として、報償責任の原理からきている条文ではありますが、営利性や報酬の有無などは関係なく、広く事業において他人を使用する場合に適用される法令であるという点です。

しかし、実際の各事例からすれば、経営者としては心から「それは従業員が勝手にやったことで会社は関係ない」と言いたくなるような場面もあると思われます。これを法的に言い換えると、使用者(つまり経営者側の)選任監督や指揮命令に服する関係にあって、使用者の事業の執行についてなされた場合と表現し、使用者が指揮命令等を行使できる被用者を使用して、自己の社会的活動が拡張されたと客観的に認められる範囲において、使用者にも責任が発生するとされています。

このあたりの具体的な事例は、様々あり、喫茶店で従業員が営業中に客と口論になり、客に暴力をふるった例など意外と身近な例や興味深い事例もあるのですが、企業でSNS運用を行っており、広報担当の従業員やSNS事業部などを立ち上げている場合であれば、多くの場合、この条文の適用対象となり、法人においても著作権侵害の責任を取らざるを得なくなると推測されます。

著作権侵害における損害賠償額

著作権者の損害賠償をサポートする条文が著作権法114条

では、誤って従業員がフリー素材出ない画像や動画を使用した場合にどのような損害額を賠償しなければならなくなるのか。関連する条文や今回の裁判例を紹介します。

まず関連する条文は著作権法114条3項(損害の額の推定等)という条文です。この条文自体は、著作権者の損害賠償をサポートしている条文なのですが、なぜ著作権者がこのように優遇されるのでしょうか?

著作権は無形資産の1つであり、例えば本件の様に無断利用されたとしても、オリジナルの画像自体が毀損(壊れたり、使えなくなったり)するわけではありません。ここに、有体物の毀損行為などとの違いがあります。そうすると、著作権侵害による損害賠償請求は、侵害によって、著作権の価値が下がったというような損害が観念されることとなります。
言い換えると、侵害がなければこんな利益を得られていたはずだという立証が必要になるのですが、これは可能性の議論となるため、容易ではないのです。

そこで、著作権法は一定の損害賠償請求を用意するために、推定というとりあえずこの金額を主張することを認めるというようなルール作りをして、著作権者の損害賠償請求をサポートしているといえます。

その中で本件では114条3項による「使用料相当額」の請求が主張されています。本項は使用料相当額として、他の項と異なり、権利侵害者が利益を得ているといないとにかかわらず、使用料相当額が請求できる条項となっています。

なお、この条文は平成12年の改正で、侵害し得(ばれるまで使用料相当額を支払わなくてもよい)状態を防ぐため、「通常」という文言が削除され、専門書籍では、既存規定において5%等の使用料相当額とあるところ、8~10%の使用料率が採用されているなどとされています。

価格表が常に採用されるわけではない

気になる損害賠償額ですが、今回の裁判所の判決によると、クリエイターの価格表の金額をそのまま採用するわけではないことが窺われます。

今回の例では、価格表に則った一般の取引市場における契約成立が確認できないことなどが特に注目されます。ウェブサイトにおける価格表は一つ重要な参考資料になると考えられますが、価格表の金額があったとしても、その金額での取引がない特殊な事実関係などがある場合には、必ずしもその金額として算定するわけではないという点がこの紛争のリアルな中心地であるように思われます。

とはいえ、1年目が5万5000円で、2年目以降が3万3000円の価格に対して、裁判所が認めた金額は3万円ということで、価格表が全く無視されているわけではないといえます。

その他裁判所が判断の理由に挙げている事実としては、画像の露出度や、画像が使用される箇所や頻度などがあります。

この事例からの学び

この事例からの学びとしては、SNSや映像コンテンツによるマーケティングやブランディングなどを図っていく場合には、担当者に著作権などの知的財産のリテラシー教育を定期的に行ったり、画像を使用する場合のリソース等のチェック体制を整えることが有益です。

特に昨今は生成AIの普及により、より広く様々な画像や動画が使えるようになり、活用に多様性が生まれる反面、このような意外な落とし穴にも備えておく必要があります。

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