AI画像・動画の生成をクライアントから依頼されたが、「イメージと違う」と何度もリテイクを求められる。法的に断れる?
結論:「何が合格か」が契約で決まっていなければ、無制限のリテイクに応じる義務はありません
① AI生成特有の事情:「イメージ通り」を保証できない技術的理由がある
生成AIによる画像・動画制作には、従来の手作業による制作とは根本的に異なる特性があります。同じプロンプトを入力しても出力は毎回異なり、細かな表情・動き・色調の微調整には限界があります。
そのため「イメージと違う」というクライアントの主張が、クリエイターの技術的な瑕疵なのか、AIの技術的限界によるものなのかを区別することが重要です。この区別が、リテイク要求に応じる義務の有無を左右します。
② フリーランス新法が適用される場合:条件明示の有無が鍵
フリーランスとして企業から受注している場合、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)3条により、発注者(企業側)には契約時に給付内容を書面等で明示する義務があります。
この「給付内容」の明示が具体的であれば、その水準を満たしているかどうかが履行の判断基準となります。逆に、明示がない場合や「クオリティの高い動画」のような抽象的な記載にとどまる場合は、求められている水準が客観的に判断できないため、クリエイター側は「債務不履行には当たらない」と主張する余地が生まれます。
つまり、発注者が条件明示義務を果たしていないことが、クリエイター側の防御根拠にもなり得るのです。
③ フリーランス新法が適用されない場合でも同じ理屈が使える
フリーランス新法の適用対象外の取引(法人間取引など)でも、民法上の委任契約における受任者の善管注意義務(民法644条)の観点から、同様の主張が可能です。受任者は「契約の趣旨に従い」善良な管理者の注意をもって業務を行えば足り、契約締結時に合意されていない水準での修正を強いられる義務はありません。
当初の合意に具体的な品質基準が設けられていなかった場合、後から一方的に高い水準を要求することは、不当な条件の追加として認められない可能性があります。
④ 実務上の予防策:契約書での事前合意が最大の防御
リテイクトラブルを防ぐために、契約書または発注書に以下を明記することを強く推奨します。修正回数の上限(例:「修正は〇回まで」)、合否判断の基準(主観的評価ではなく客観的な仕様)、AIの技術的制約に起因する仕様変動の免責、上限を超えた修正対応は別途費用が発生する旨。
すでにトラブルになっている場合は、当初の発注内容と現在の要求内容を文書で整理し、「契約の範囲を超えた要求である」ことを具体的に示すことが交渉の第一歩です。