生成AIを使って作成した契約書・規程類の著作権は誰に帰属しますか?
結論
契約書や社内規程は、著作権法上の「著作物」にあたらないケースがほとんどです。したがって、生成AIを使って作成した場合であっても、著作権帰属を論じる前提を欠く場面が多く、「誰に著作権が帰属するか」よりも「そもそも著作権が発生するか」を先に検討する必要があります。
著作権法上の「著作物」とは
著作権法は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」を著作物として保護します(著作権法2条1項1号)。ここでいう「創作的」とは、作成者の個性が何らかの形で表現に反映されていることを意味します。単なるアイデア・事実・ありふれた表現は保護の対象外です。著作権はあくまで「表現」を保護するものであり、「アイデア」を保護するものではありません。
契約書・規程類はなぜ著作物になりにくいか
契約書や社内規程の条項は、主体・客体・権利義務の内容を正確に記述することが目的であり、表現の揺らぎや個性の発露はむしろ避けるべきものとされています。「甲は乙に対し○○する義務を負う」という条文の書き方に、別の自然な書き方はほとんどありません。つまり、アイデアと表現が不可分に結びついており、特定の表現を保護することがアイデアの独占につながってしまうため、著作権による保護になじまないのです。
裁判例
東京地裁昭和62年5月14日
契約書が問題となった事案で、裁判所は「本件文書の記載内容は、『思想又は感情を創作的に表現したもの』であるとはいえないから、著作物ということはできない。」と明示して著作物性を否定しました。上記の単純な契約書の著作物性に関する判断事例と言えます。
東京地裁平成26年7月30日
時計修理サービス業の修理規約文言を模倣した事案ですが、模倣箇所がいわゆる規約条項ではなく、サービスのアピール(例:過去実績を示す文言、)につながる表現が多く含まれており、その方法には創作の余地があるため、著作物性が認められたと考えられます。裁判所としても、「規約であることから,当然に著作物性がないと断ずることは相当ではなく,その規約の表現に全体として作成者の個性が表れているような特別な場合には,当該規約全体について,これを創作的な表現と認め,著作物として保護すべき場合もあり得るものと解するのが相当」と、あくまで特別な場合として取り扱っています。
なお、本件はいわゆる規約のデッドコピー案件であり、損害賠償として5万円、規約のウェブサイト使用禁止が認容されています。
生成AIを使った場合の整理
以上を踏まえると、生成AIで作成した契約書・規程類については次のように整理できます。
まず、条項部分(権利義務を定める本文)については、そもそも著作物性が認められないケースがほとんどです。著作権が発生しないということは、誰でも自由に利用・複製できる状態であり、生成AIの利用者においても著作権等が帰属することはありません。
一方で、規約の中にサービスの特徴を説明する文章や独自の表現を凝らした前文などが含まれる場合は、上記平成26年判決のような例外的判断がされる可能性があります。その場合、生成AIの出力に利用者が創作的な関与をしていれば利用者に著作権が認められる可能性が生じ、単純な指示のみであれば著作権不発生となる可能性が高いといえます。